乳癌の薬物療法は手術の前にも後にも行うことがあります

乳癌の薬物療法は手術の前にも後にも行うことがあります

乳癌の治療

乳癌は手術が基本的な治療法となりますが、ほかに放射線療法や薬物療法を必要に応じて組み合わせ、できるだけ手術の範囲を抑えられるようにします。薬物療法として行われるのは抗がん剤による化学療法をはじめ、ホルモン剤や「分子標的治療薬」という特定の分子に作用する薬を使う治療法です。

薬物療法や放射線療法は従来より乳癌の治療法として行われていましたが、手術の補助的な役割という面がありました。しかし、近年、薬物療法や放射線療法は著しく進歩しています。そこで、これらの治療法を手術の補助的な役割に位置づけるのではなく、特性を生かし効果的に組み合わせることで「がんの根絶を目指す」という考え方に変ってきました。

乳癌の基本的な治療の流れ

●病状の把握
乳癌の治療法を決めるに際は患者さんの年齢、閉経の前か後かなどの要因のほかに、以下のような要因が重要となります。

・しこり(腫瘤)の大きさ
・リンパ節への広がり(転移)の有無
・がん細胞の組織型(がんのタイプ)
・薬物療法が効果があるかどうか(薬物への反応性)

●術前の薬物療法
・化学療法
・ホルモン療法
・分子標的療法

●手術
・乳房切除術
・乳房温存手術

●術後の治療
・化学療法
・ホルモン療法
・分子標的療法
・放射線療法

なお、乳房の手術や放射線療法のように乳房という局所に行う治療は局所療法、化学療法やホルモン療法などは全身に作用するため全身療法と呼ばれることがあります。

乳癌の術前の薬物療法

乳癌は血液をはじめ、リンパ節によって広がりやすいという特徴があり、乳房の周辺だけでなく、全身に広がっていることも少なくありません。そのため、手術前に行う化学療法は抗がん剤でがんを小さくして手術の範囲を狭くする、あるいは全身のがんをできるだけ抑えて術後の回復や予後をよくすることが目的です。

術前化学療法を行うと、およそ8割の人がしこりが小さくなった、あるいはリンパ節に広がった(転移)がんが小さくなったなどの効果が報告されています。一方、1割ほどの人には十分な効果が認められません。術前に化学療法を行うということは、手術の時期がそれだけ遅れるといったデメリットを持ち合わせています。

かつて術前の薬物療法というと、かつては化学療法のみでした。しかし、最近では化学療法だけでなく、ホルモン療法や分子標的療法などを行うことで手術の範囲をより縮小できるようになりました。ホルモン療法は女性ホルモンのうち、エストロゲンが体内で生成されるのを抑えることを目的とした治療です。

乳癌の中には、エストロゲンによってがん細胞が増える「ホルモン依存性」というタイプがあり、その場合にはホルモン療法を行うとがんの増殖を抑えるのに効果があります。また、「分子標的療法」と呼ばれる治療法については以下で詳しく説明しましょう。

・分子標的療法:乳癌における抗HER2療法

がんが増殖するとき、「HER2」(ハーツー)というタンパクが関与することがあります。このタンパクの働きを薬で抑えてがんの増殖を抑制しようとする治療法が、抗HER2療法です。

抗HER2療法はHER2タンパクが過剰なときに効果を示すため、HER2タンパクが過剰か(陽性)、そうでないか(陰性)をしこりの組織を採って調べた上で行います。乳癌の患者さんのうち、HER2が過剰な「HER2陽性乳がん」と呼ばれる人は15~20%ほどです。

HER2の働きを抑える薬のように、ある特定の分子に働きかけて効果を示す薬は「分子標的治療薬」と呼ばれています。従来からある化学療法はがん細胞に限らず正常な細胞にもダメ―ジを与えてしまいますが、分子標的治療薬は正常な細胞に影響を与えないことが期待される薬です。しかし、正常な細胞が受けるダメージは想定より多いのではないかという報告もされるようになり、現在、研究が続けられています。

手術

・乳房切除術

従来は乳房とともに「大胸筋」や「小胸筋」と呼ばれる肋骨と乳房の間にある胸の筋肉も切除する「胸筋合併乳房切除術」が主流でした。しかし、現在の乳房切除術では、乳房は切除するものの大・小胸筋を残す「胸筋温存乳房切除術」が行えるようになりました。

胸筋温存乳房切除術は胸の筋肉だけでなく、皮膚や脂肪も残せるため、胸筋合併乳房切除術に比べて肋骨が浮き出るなどの胸の変形が少ないこともメリットです。

・乳房温存手術

最近では検査技術が進歩したことによって小さながんのうちに発見できるようになり、乳房温存手術の占める割合が増加しました。乳房を温存する手術では、乳腺の部分切除を行います。切除の範囲が広いと乳房に変形が起こることもありますが、切除が狭い範囲であれば変形も少ないことがメリットです。

乳房温存手術は、がんが3cm以下の場合など適応するには以下に挙げるような条件を満たす必要があります。なお、乳房温存手術の後には放射線療法が必要となります。

乳房温存手術を選択できる条件とは

乳房の温存が可能かどうかについては一概にいえない面もありますが、以下のような条件が挙げられています。

一つは、しこりが3cm程度の大きさであることです。しかし、しこりが3cm未満の小さなものでも、がんが周囲に広がっている場合には再発の可能性が高くなるため乳房の温存は難しいことが少なくありません。つまり、温存ができるかどうかは、原則としてがんの広がりがないことが重要です。もし、リンパ節に広がっている場合は、狭い範囲に限られているなど軽度であることが必要な条件となります。

しかし、実際に乳房を温存できるかどうかは、一人ひとりの患者さんの状態で異なります。どのような手術が必要かについては担当医によく説明をしてもらい、納得のできる治療としましょう。

術後の薬物療法

がん細胞が乳房以外の臓器、また、全身にも広がっていると考えられる場合は、がんの増殖を抑えるために手術後に化学療法やホルモン療法、分子標的療法を行うことがあります。それぞれの治療を単独で、あるいは組み合わせて行いますが、いずれにしても乳がんの再発を予防するために重要な治療です。

術後の放射線療法

エックス線による放射線治療は乳房温存手術を行った人、あるいは乳房切除を含め術後の薬物療法と併用して行われることが多いです。

また、一般的なエックス線の治療よりも治療効果の高い放射線療法として「重粒子線治療」があります。重粒子線はエックス線に比べて集中して当てることができるため効果が高くなるだけでなく、周辺の臓器へのダメージが少なく、痛みもなく、熱も発生しないことが特徴です。

重粒子線治療を受けるには、しこりが2cm以下の大きさで重い合併症がないなどの条件があり、先進医療のため自費診療となります。先進医療は、薬事法で承認されていない段階の薬や医療機器を使用しますが、一定の要件を満たすことを確認した上で行われる治療です。

手術の適応にならない場合の乳癌の治療

新しい「切らない乳癌治療」として、ここでは二つの治療法をご紹介します。

ラジオ波熱焼灼(温熱)療法(RFA)は、早期の乳がんに対して先進医療として実施されています。具体的には、がん組織に針を刺して数分間、通電し、がん細胞をラジオ波という電磁波で死滅させる治療です。しこりの大きさが1cm以下のがんであることなど、この治療法を受けるにはいくつかの条件を満たす必要があります。

また、組織の一部を凍結させる凍結療法も「切らないがん治療」として海外ではすでに行われています。しかし、日本で保険適用となっているのは腎臓のがんだけです。特殊な医療機器が必要なため実施できる病院は全国でも限られていますが、乳癌への応用は始まっています。

 

 

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