がん検診にはオプションがある!?医師が教える、がん検診を受けるときに知っておきたいポイント!
ひとくちにがん検診と言っても、種類は非常に多いです。どのがんを見つけるための検査を行うかによって胃がん検診、肺がん検診、子宮頸がん検診など様々な検査があります。
このように様々な種類の検診から「どの検診を選べばよいか」は悩むところかと思います。予算と相談しつつ、例えば喫煙習慣がある方は肺がん検診、日頃の食生活が乱れていると感じる方は胃がん検診を、といったようにがんのリスクとなるような要因をもとに、気になる部位に合った検診を受けるのがよいでしょう。今回はがん検診を受ける前に知っておきたいポイントについて、お伝えします。ぜひご覧ください。
前回のコラムで、がん検診についてお話しさせていただきましたが、今回のコラムをお読みになる前に一読いただくと、内容がより理解しやすいかと思います。よろしければご覧ください。
現在推奨されている5つのがん検診
様々な種類があるがん検診ですが、現在「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」によって、厚生労働省が推進しているのは5つの部位の検診となっています。その5つの検診とは、肺がん・胃がん・大腸がん・乳がん・子宮がんです。これらの部位に対して、下記のような検査方法で行うがん検診をまとめて対策型検診と呼びます。
(検査方法は、集団における死亡率減少を目的として公共的な予防対策としてとして行われる検査をいいます。有効性評価に基づく、がん検診・健保組合等のがん対策担当機関が選ぶこととなっています。)
これら5つのがんはいずれも日本人がかかりやすいがんですが、検診を行うことで「集団におけるがんによる死亡率の減少に効果がある」と様々な研究から結果が示されています。
またこれらの検診は公共的な予防対策として行われているため、公的な補助金が出ます。そのため、無料もしくは少額の自己負担(例えば、横浜市の肺がん検診費用負担は680円!)で検査を受けることができるのです。検診の対象となっている場合には、自治体から案内とともに検診受診券などが送られてきますので、検診の申込期間、受診期間を確認した上で検診を受けに行ってみましょう。
がん検診はオプションがつけられる!?
上記で述べた対策型検診以外にも様々なオプションが存在します。対策型検診以外の検診は任意型検診と呼ばれ、個人の死亡リスクを下げるために受けるものとされています。
オプションのつけかたとしては、2つのパターンがあります。
- 上記の5つの検診の検査方法をグレードアップする
多くの場合自費となってしまいますが、例えば大腸がん検診の便潜血検査を、下部消化管内視鏡検査に変更するといったことが可能です。便潜血検査とは、大腸がんを見つけるために行われる検査ですが、早期の大腸がんでは病巣から出血がみられないこと(偽陰性)もまれにあります。またがんがなかったとしても、痔からの出血などがん以外の要因により誤って陽性(偽陽性)となったりする場合もあり、正確な検査結果が得られないということが起こり得るのです。
しかし下部消化管内視鏡検査は、大腸の状態をカメラで視覚的に確認することができるため、早期のがんやポリープを発見することができます。また、がんかどうか疑わしい病変が見つかった際には、その部分組織を一部採取し(これを生検といいます)、顕微鏡で観察することで、腫瘍かどうかを判別することができます。 - 他の部位の検査を受ける
こちらも多くの場合は自費での受診となります。
例えば腹部超音波では、肝臓や胆のう、膵臓に腫瘍がないかを視覚的に確認することができますし、MRI・CTを撮影すれば全身をくまなく検査することはできます。(費用がかなりかかってしまいますが・・・。)
そんな様々な種類があるがん検診ですが、中でも注意しなければならないのは、様々な項目があり目を引くがん腫瘍マーカー検査、全身のがんを調べることができると謳われることが多いPET検査、胃がんのリスクを判定するペプシノゲン法・ヘリコバクター・ピロリ抗体検査などといった死亡率減少効果の証明が不十分な検査です。
腫瘍マーカー検査の問題点は3つ
腫瘍マーカー検査とは、発生したがんが特異的に産生する血中タンパク質の量を調べることで、特定のがんがあるかどうかを調べるのが目的の検査です。腫瘍マーカーには下のように様々な種類があります。
”血液を採取するだけで、がんがあるかどうかわかる検査”と聞くと、胃内視鏡検査などに比べて苦痛も少なく、その点は確かにメリットです。ですが、がんを早期に見つけるという目的においては、腫瘍マーカー検査には3つの問題点があります。
- がん以外の要因によってマーカーの値が上昇する
腫瘍マーカーは、もちろんがんがその原因となって値が上昇します。しか、加齢や喫煙などのがん以外が原因となっても、マーカーが軽度の上昇を示すことがあります。そのため腫瘍マーカーが上昇していても、一概にがんだとは言い切れないのです。(結局は、内視鏡検査などの精密検査が必要となります。) - マーカーによっては、どの部位のがんか特定できない
例えばCEAというマーカーを調べた場合、マーカーの値が高かった場合には、どの部位にがんが発生しているのでしょうか。下の図を見ていただくとわかるように、肺がん・胆道がん・乳がん・胃がん・膵がん・大腸がんといったように様々な部位の可能性があります。ですので、腫瘍マーカーが高い値を示したとしても、がんの部位の特定にまでは至りません。結果を踏まえて、精密検査が必要となります。 - がんを早期に発見するのが難しい
様々な腫瘍マーカーがあることはおわかりいただけたかと思いますが、この中で早期がんの発見に効果的とされているのは、前立腺がんのマーカーであるPSAくらいです。その他のほとんどの腫瘍マーカーは、早期がんでは上昇しないことがわかっています。
そのため、たとえ腫瘍マーカー検査で陰性であったとしてもがんがないとは言い切れません。つまり検診としてがんの早期発見・早期治療のために腫瘍マーカーを使うのは、あまり適していないと言えます。
(例外として、前立腺がんについてはPSAの値を調べることでがんの早期発見が可能ですので、自治体が行っている検診のオプションとしてPSA検査が受けられる場合もあります。)
腫瘍マーカー検査は、がんの治療において抗がん剤などの治療効果を判定する際や、がん治療後の定期的な検査として、がんが再発していないかを調べる際に使われることが一般的かつ効果的なのです。
また肺がんではCA-125、CEA、SLX、CYFRA、SCC、NSE、ProGRPといったように、一つのがんを示すのに複数種類の腫瘍マーカーがあります。どのマーカーを受ければよいかが判断しづらい、というのも腫瘍マーカー検査における難しいポイントかもしれませんね。
微小ながんを発見できるPET検査。そのメリットとデメリット
PET検査とは、がん細胞が成長するために正常な細胞よりも多くのブドウ糖を取り込むという性質を利用して、ブドウ糖に似たFDG(フルオロデオキシグルコース)という放射性物質を体内に注射し、体内でのFDGの集まり具合を画像で確認することでがんの存在を発見する、という検査です。
PET検査は”全身を検査できる”、”微小ながんを発見できる”と銘打っており、PET検査が含まれる検診メニューも近年増えてきています。
しかし、日本核医学会が発行しているFDG-PETがん検診ガイドラインには「PET は一度に多くの種類のがんを発見でき、一般にがんの早期発見に少なくともある程度は役立つと期待されるが、他方PETがほとんど役に立たない種類のがんもあるため、がん検診に PET を用いる場合は他の検査を併用する「総合がん検診」が望ましい。」「PET がん検診の有効性、すなわちどのがんがどれくらいの精度で発見され、それによって生存年数や QOL がどれくらい延長するかに関しては、十分な臨床データが無くエビデンスが不十分である。」とも記載されており、PET検査によるがん早期発見のエビデンスが整っていない状況です。
ちなみにPET検査はがんと確定診断され、手術を受ける前にがんが転移していないかを調べたり、がんが再発していないかを調べたりする際には有用な検査です。
胃がんの可能性を探る、2つの検査
胃がんのリスクをチェックするための検査には、ペプシノゲン法とヘリコバクター・ピロリ抗体検査があります。
ペプシノゲン法は胃の粘膜の萎縮度合いを調べ、ヘリコバクター・ピロリ抗体検査は胃にヘリコバクター・ピロリが感染しているかどうかを調べる検査です。ピロリ菌への感染が、胃がんのリスク要因になるというのは有名な話です。
しかしこれらの検査は、対策型検診としては採用されていません。この理由としては、死亡率減少効果について研究した論文が過去にないため、対策型検診の目的である”集団の死亡率を減少させる”という目的においては効果が十分に得られていないということがあります。
ですがこれら2つの検査は「将来胃がんにかかるリスクが、どの程度あるかを評価する」という目的においては非常に意義のある検査です。家族に胃がんの方がいらっしゃる方などは、一度受けてみることも大切かもしれませんね。
いかがでしたでしょうか。がん検診にオプションがあると知らない方も多かったのではないかと思います。もしがん検診を受けてみようと検討されている方は、様々な検査の中からご自身が最も知りたいことが分かるもの、かつ効果が立証されている(検査を行うことで、がんによる死亡率を減少させると証明されている)検査メニューを選択すると、納得した結果が得られるのではないかと思います。
また国立がん研究センターのホームページ(https://epi.ncc.go.jp/riskcheck/)では、がんのリスクを診断できるリスクチェッカーが公開されています。主要ながんごとにいくつかの質問に答えることで、がんのリスクがどの程度かわかります。このリスクチェッカーは医療機関が監修を行っているため、ぜひ参考にしていただき、受けるがん検診を検討されてみてはいかがでしょうか。
次回のコラムで、がん検診のコラムは最後となります。よろしければ次回もまたお読みください。
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