健康診断とがん検診って検査は何か違うことをするの?医師が解説する、それぞれの検査について。
健診と検診で受ける検査はどう違う?
いざ自分が検査の対象であるということがわかっても、どんな検査をするのか知らないまま検査に行くのは不安ですよね。そこで、健診とがん検診それぞれについてどのような検査を行うかを簡単に説明いたします。健康診断のコラムでは、検査についてより詳しく説明していますので、そちらもぜひどうぞ。
健康診断の検査項目
健康診断では、原則として労働安全規則44条に定められた以下の11項目の検査が行われています。
- 既往歴、業務歴の調査
- 自覚症状、他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査
- 胸部エックス線検査、喀痰検査
- 血圧の測定
- 貧血検査
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
- 血中脂質検査(LDL、HDL、中性脂肪)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
- 心電図検査
※ただし、一部の項目は医師が必要ないと判断した場合には省略されます。
※会社の補助によって、これら11項目以外に胃部エックス線などを受けられる場合もあります。
がん検診の検査項目
指針で定められている主要ながん検診は5つあります。
- 胃がん検診
- 肺がん検診
- 大腸がん検診
- 乳がん検診
- 子宮がん検診
検査項目はそれぞれ以下のようになっています。似たような検査がある場合には、それぞれのメリット・デメリットもあわせてご紹介します。
また、がん検診について前回のコラムでも詳細をお伝えしています。合わせてお読みいただくと、理解が一層深まると思いますので、よろしければこちらもぜひお読みください。
1.胃がん検診
「問診に加え、胃部エックス線検査もしくは胃内視鏡検査のいずれか」を行います。
- 問診
これまでにかかった病気や、胃がムカムカするなどの症状がないかを確認します。自治体によっては問診票に記入する形式のものもあります。(下の写真は岡山県浅口市の胃がん検診問診票です。) - 胃部エックス線検査
一般的に『バリウム検査』と呼ばれている検査となります。バリウムはエックス線などの放射線を吸収する性質があり、その性質を利用して胃の壁に腫瘍や潰瘍がないか検査します。
バリウム検査と聞くと「バリウムがおいしくなくて苦手」、「げっぷがでそうになるのを我慢するのがつらい」などといったことがまず思い浮かぶ人が多いと思いますが、実はバリウム検査はバリウムを飲むだけでは行うことはできないのです。
まず胃の動きを止めるための注射をします。胃は、食物を腸に送り出すために頻繁に収縮しますが、バリウム検査時に胃が収縮してしまうと、せっかく苦労して飲んだバリウムが十二指腸・小腸へと流れてしまい、正確な検査ができなくなってしまいます。そのため、胃の運動を一時的に止める必要があります。
他にも発泡剤を飲む必要があります。発泡剤から発生する炭酸ガスで胃を膨張させ、エックス線撮影で胃の様子を正確に検査するために、飲む必要があります。検査の際、「げっぷが出そうになっても我慢してくださいね。」と言われるのは、バリウムのせいではなく、この発泡剤のせいなのです。
そして検査台に乗って「いざ撮影を行う」というときには、検査台ごと身体を回転させられてしまいます。これは飲んだバリウムを胃の壁にまんべんなく塗りつけるとともに様々な方向から胃の表面を撮影し、病変と思われる凹凸がないかを見落とさないようにするためです。
このようにして、エックス線を用いて胃に病変がないかを調べていきます。
メリット
・胃全体の形が良くわかる
・胃下垂や胃の伸びやすさがわかる
・食道や胃の動き、食べ物の通る様子がわかる
・検査直後から食事ができる
・内視鏡に比べて安価である
デメリット
・誤嚥、排便遅延、穿孔、バリウムアレルギーなど偶発症リスクがある
・放射線被曝がある
・異常があった場合は改めて内視鏡検査を受ける必要がある
・食道や食道胃接合部などの観察しにくい場所では病変がわかりにくい
- 胃内視鏡検査
胃内視鏡検査とは、いわゆる胃カメラです。口もしくは鼻から内視鏡を挿入し、カメラで胃の内部を目視していきます。
口から内視鏡を挿入すると、内視鏡が舌根部(舌の根元の部分)を通るので、オエッという咽頭反射が起こりますが、鼻から内視鏡を挿入する場合にはほとんど起こりません。そのため、一般的には経鼻内視鏡の方が苦痛は少ないと言われています。
また内視鏡検査は、口からと鼻からで受け方の順序が少し違います。経口内視鏡ではまず内視鏡を挿入する前にいくつかの準備を行います。まず消泡剤という、胃の中をきれいにする薬を飲みます。次にオエッとなる苦痛をやわらげるため、のどに麻酔をかける液体飲みます。このとき麻酔をしっかりとかけるために、のどに貯めながらゆっくりと飲み込みます。(医療機関によっては、胃の運動を止める薬剤や鎮静剤を注射する場合もあります。)それが終わるとやっと内視鏡を挿入して検査、となるのです。
経鼻内視鏡でも消泡剤は飲まなければなりません。そして鼻の通りをよくする薬を鼻腔に噴霧し、鼻腔に麻酔をした上で内視鏡を挿入します。(鼻腔への麻酔のかけ方が、スプレーで噴霧するものや鼻腔に注入するものなどさまざまな方法があります。また麻酔をかける回数や、のどにも麻酔を行うかなどは医療機関によって異なります。)
メリット
・咽頭、食道、十二指腸の観察も可能
・粘膜表面の色調や凹凸など微細な変化を詳細に観察できる
・必要に応じて生検を行い、がんなどの診断をつけられる
・胃部エックス線ではわからない逆流性食道炎の有無を判断できる
デメリット
・前処置の咽頭麻酔によるショックのリスクがある
・穿孔、出血などの偶発症のリスクがある
・経口内視鏡の場合、オエッという咽頭反射が起こる
・検査中の腹部膨満感
・咽頭麻酔の効果がなくなるまで飲食ができない(検査後約30分)
2.肺がん検診
「問診、胸部エックス線検査および喀痰細胞診」を行います。
- 問診
喫煙の有無やその期間などを確認します。 - 胸部エックス線検査
胸部のレントゲンを撮影し、肺に影などが写っていないかを確認します。
これまでにご説明したバリウム検査や胃内視鏡検査に比べると、簡単な検査になります。苦痛などは特になく、「息を大きく吸って、止めてください。」というアナウンスに従っているといつの間にか検査が終わっているくらいです。エックス線検査ということで放射線の被曝が気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、1度のエックス線検査での被曝量は約06mSv(ミリシーベルト)と、1人あたりの年間自然放射線被曝量1.5mSv(日本平均)の25分の1という特に気にする必要はない量です。 - 喀痰細胞診
痰の中に含まれている肺や気管支などから剥がれ落ちた細胞を顕微鏡で確認し、肺がん細胞などの異常な細胞がないかを調べます。
※喀痰細胞診は喫煙者など、肺がんリスクの高い人に行う検査で、医師が必要ないと判断した場合には省略されます。というのも、胸部エックス線検査は肺野部(肺の入口から遠い部分)の病変は見つけやすいのですが、肺門部(肺の入口に近い部分)の病変は見つけにくいと言われています。喫煙が原因となって発生する肺がん(扁平上皮がん)は肺門部にできることが多いため、胸部エックス線検査だけでは不十分であると考えられており、喫煙者には喀痰細胞診も行っているのです。)
3.大腸がん検診
「問診及び便潜血検査」を行います。
- 問診
生活習慣や、家族歴(過去、血縁関係者に大腸がんにかかった人がいるか)など大腸がんのリスク因子を確認します。 - 便潜血検査(免疫法)
大腸がんはがんの表面が自然に崩れたり,通過する便にこすられて崩れることによって、少量の出血をきたすことがあります。この様な肉眼的には認知することが出来ない少量の出血(潜出血)を検出するための検査が、便潜血検査です。
この検査は、あらかじめ配布された採取キットを使って自宅で便を採取し、病院に行った際に渡すと、便に血液が混ざっているかを検査してくれます。以前は化学法という、ヘモグロビンと試薬との化学反応をもとに便中に血液が混入しているかを調べる検査が主流でしたが、肉や魚のヘモグロビンにも反応してしまったり(偽陽性)、緑黄色野菜やトイレ用洗剤で反応が阻害されたり(偽陰性)することがありました。
また、胃液や腸液により変性してしまったヘモグロビンにも反応するため胃や十二指腸といった上部消化管での出血にも陽性となってしまうといった点もありました。しかし、免疫法ではヒトのヘモグロビンに対して特異的に反応する(もちろん変性ヘモグロビンには反応しません)ため、より大腸からの出血を特異的に検出することができるのです。
4.乳がん検診
「問診及び乳房エックス線検査(マンモグラフィ)」を行います。
※昔は視診、触診が行われていましたが、現在では推奨されていません。
- 問診
月経の状況や妊娠歴、家族歴などを確認します。 - 乳房X線検査(マンモグラフィ)
乳房をプラスチックの板ではさんで平たくし、専用のX線装置で乳房全体を撮影し、乳がんの有無を調べます。マンモグラフィを行うことで、乳がんの初期症状である微細な石灰化(死んだ細胞にカルシウムが沈着した状態で、良性のものと悪性のものがある)や、セルフチェックもしくは触診では分かりにくい小さなしこりを画像として捉えることができます。
5.子宮頸がん検診
「問診、視診、子宮頸部の細胞診及び内診」を行います。
- 問診
月経周期や直近の月経の様子、家族歴などを確認します。 - 視診
膣鏡を挿入し、子宮頸部の状態を目で確認します。おりものの状態や炎症の有無などがわかります。 - 子宮頸部細胞診
綿棒のようなもので子宮頸部を優しく擦り、細胞を採取します。そして、その細胞を観察しやすいように染色し、顕微鏡で確認していき、がん細胞やがんの疑い(異形成)がある細胞がないか調べていくのです。検査を受ける際は子宮頚部を綿棒で擦って終わりなのですが、その後、染色・顕微鏡での観察といったように実はなかなかに手が込んだ検査なのです。 - 内診
片方の指を膣に入れ、もう片方の手でおなかを押さえて、はさみながら触診し、腫れなどがないかを確認します
ご覧いただきましてありがとうございます。がん検診でどのような検査をされるのかよく分からないと思っている方が、受ける検査のイメージがついて、少しでも安心できていたら何よりです。次のコラムでも引き続きがん検診についてお伝えします。よろしければぜひお読み下さい。
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