インフルエンザワクチンは炎症性腸疾患で免疫抑制していても有効

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[投稿日] '16/12/14 [最終更新日] '18/03/18 858views
インフルエンザワクチンは炎症性腸疾患で免疫抑制していても有効

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病)ってどんな疾患?

炎症性腸疾患とは、潰瘍性大腸炎とクローン病を総称したもので、大腸に長期間炎症や潰瘍を引き起こす原因不明の病気です。

潰瘍性大腸炎は、20代に発症しやすく、男女差はみられません。炎症は結腸から生じて徐々に広がっていき、主な症状としては下痢や血便、大腸からの出血による貧血、吸収不良による体重減少などがみられます。

一方、クローン病は10代後半から20代に多く、男女比2:1と男性に多い病気です。炎症は消化管内であればどこにでも生じるため、下痢や血便、貧血、体重減少に加え、口内炎や肛門近くにニキビ(肛門周囲膿瘍)が出来るという特徴があります。

いずれも根本的な治療法はなく、栄養を点滴から取り入れて腸をやすませたり、炎症を繰り返して狭窄してしまった腸を手術して取り除いたり、炎症を抑えるために免疫抑制剤の投与を行うなど、その時その時の病状に応じた対症療法が行われています。

炎症性腸疾患では、腸の炎症によって食べ物を上手く吸収することができません。また、発熱や下痢から体力を奪われやすく、治療として免疫を抑える薬を使うことから、免疫力が低い状態になっています。

炎症性腸疾患 インフルエンザワクチン

炎症性腸疾患 インフルエンザワクチン

 

インフルエンザワクチンは免疫が抑制されている炎症性腸疾患の患者さんにも有効か

炎症性腸疾患で免疫を抑える治療をしている患者さんにとって気がかりなことの一つに、免疫の低下により他の疾患に罹ってしまうのではないかということがあります。特に冬になると猛威をふるうインフルエンザなどは、他者からの感染のしやすさも重なって、免疫が低下している人にとって非常に怖い病気の一つです。

インフルエンザにならないように、というとワクチン摂取で予防することが考えられますが、「免疫が低下している状態でワクチンを打っても大丈夫なのか?」「ワクチンを接種することで、むしろインフルエンザにかかってしまったりしないのか?」と気になる方もいるかもしれません。

そこで、今回ご紹介する論文は、感染症にかかりやすい状態になっている炎症性腸疾患の患者さんにおいて、インフルエンザワクチンの有効性と安全性を研究した論文です。

対象となったのは、18歳から64歳までの255人の炎症性腸疾患の患者さんです。患者さんは、免疫療法による治療を行っていないA群(31人)、免疫抑制剤による治療を行っているB群(77人)、生物学的製剤による治療を行っているC群(117人)の3つの群に分けて比較しました。インフルエンザワクチンの有効性は、ワクチン接種の前後に採血を行い、A型インフルエンザに対する抗体2つ(H1N12007、H3N2)、B型インフルエンザに対する抗体の3つの抗体数を測ることで評価しました。

安全性に関しては、インフルエンザワクチン接種によって生じる可能性のある副作用が出現するかどうかを、接種後21日間追うことで検討しました。ワクチン接種による副作用としては、以下に記すような「注射した部位の症状」と「全身の症状」について調べました。

注射した部位の症状

  • 斑状出血
  • 痛み
  • 赤み
  • 腫れ

全身の症状

  • 関節痛
  • 筋肉痛
  • 疲労感
  • 下痢
  • 頭痛
  • 発熱
潰瘍性大腸炎 インフルエンザワクチン

潰瘍性大腸炎 インフルエンザワクチン

 

インフルエンザワクチンは炎症性腸疾患の治療方法によらず有効

研究の結果、インフルエンザワクチン接種の3週間後、抗体が得られた人数の割合は以下の通りで、有意な差はありませんでした。つまり、インフルエンザの抗体が得られるかどうかは、治療を行っているか否かにあまり影響はされないということがわかりました。

  • H1N12007:A群 77%、B群 75%、C群 66%
  • H3N2:A群 77%、B群 68%、C群 52%
  • B型インフルエンザ:A群 97%、B群 96%、C群 95%

 

一方、得られた抗体価(抗体の量)は以下の通りで、生物学的製剤を用いているC群と比較すると免疫療法を行なっていないA群では有意に高いことが示されました。

  • H1N12007:A群 7.9、B群 7.7、C群 6.8
  • H3N2:A群 6.5、B群 4.1、C群 3.2
  • B型インフルエンザ:A群 7.0、B群 6.5、C群 5.0

安全性については、いずれの群でも80%近くになんらかの有害事象(ワクチン接種後に生じたものであればすべて含む)が生じており、そのうちワクチンと関連の指摘されたものは15%程度で、ほとんどが軽症なものでした。

 

インフルエンザワクチンは炎症性腸疾患で免疫治療をしていても摂取すべき

インフルエンザワクチンは高い有効性を示し、多くの炎症性腸症候群の患者さんにおいてインフルエンザに対する抗体を獲得することができました。抗体を得た患者さんの割合は、現在の治療によって有意な差は生じませんでした。

しかし、免疫療法を行っていない患者さんと比べると、生物学的製剤によって治療を行っている患者さんでは、抗体価が優位に低いという結果でした。抗体価はワクチン摂取から3-4ヶ月後(2回摂取で)に徐々に下がってきて、一定以下になると効果を示さなくなりますので、そもそも得られた抗体価が低い場合には少し効果期間が短くなる可能性があります。

 

総括

炎症性腸疾患に対する薬物療法は、症状の程度によって使用する薬が異なります。軽症であれば、抗生物質や抗炎症薬のみで症状を落ち着けることができますが、コントロールできない場合には免疫抑制剤や、さらに生物学的製剤(抗TNFα抗体)などが用いられます。

今回の研究で、生物学的製剤を使用している患者さんの場合は、ワクチンを接種することで抗体価は低いですが、インフルエンザの抗体を得られることも分かりました。原因不明の炎症性腸疾患という難病に加え、さらにインフルエンザの苦痛を加えないためにも、炎症性腸疾患の患者さんは例え免疫治療をしていたとしても、積極的にインフルエンザワクチンの接種を行うことをおすすめします。

参考論文:Launay O1, Abitbol V2, Krivine A, et al(2015). Immunogenicity and Safety of Influenza Vaccine in Inflammatory Bowel Disease Patients Treated or not with Immunomodulators and/or Biologics: A Two-year Prospective Study. Journal of Crohn’s and Colitis,1096-1107.

 

 

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