日本人に多い多発性嚢胞腎!腎臓が3倍の大きさになってしまうことも…

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[投稿日] '16/10/09 [最終更新日] '18/03/18 3,305views
日本人に多い多発性嚢胞腎!腎臓が3倍の大きさになってしまうことも…

多発性嚢胞腎の概要

多発性嚢胞腎とは、腎臓に嚢胞と呼ばれる水の溜まった袋がたくさんできることで、腎臓を圧迫し様々な症状が出る疾患です。多発性嚢胞腎を発症すると様々な症状が現れます。

多発性嚢胞腎は日本では比較的多い疾患です。1994年の調査においては透析を受けていない多発性嚢胞腎の方が約1万人いると考えられており、当時実際に透析を受けていた4,595人の方と合わせて14,594人の方がいると推測されました。

現在の患者数は約31,000人と言われており、国が定める指定難病にも該当するため治療においては国から金銭的な補助を受けることもできます。

(参考)厚生労働省の指定難病

ちなみに、日本における多発性嚢胞腎の割合は4,000人中1人と言われていますが、アメリカのミネソタ州で行われた調査結果では10万人中で約1.5人のみにみられたと発表されています。このように日本における多発性嚢胞腎患者の割合は非常に多いことが分かります。

 

多発性嚢胞腎の症状

痛みや出血

嚢胞という水の溜まった袋が腎臓にたくさんできると、本来の腎臓の組織が圧迫されダメージを受けていきます。腎臓は嚢胞に圧迫され表面の膜は引き伸ばされますが表面の膜が引き伸ばされることでお腹や腰、背中に痛みが出てきます。この痛みは多発性嚢胞腎の方で現れる方が多く、全体の約60%の方に現れると言われています。

また、嚢胞の細い血管が破れ出血することもありますが、出血により圧迫が悪化し、痛みの強まりや血尿などを招くこともあります。血尿は目で見て分かるぐらいのレベルの時もあり、場合によっては血液の塊が尿の通り道(尿管)を通り、更に強い痛みを招くこともあります。

多発性嚢胞腎 腎臓内科

様々な合併症

多発性嚢胞腎が進行すると様々な合併症が出てくることも特徴です。例えば、嚢胞により腎臓が肥大してくることで腸などの消化器系が圧迫されると食べ物が上手く腸を通過することができず、消化管通過障害や食欲不振、低栄養に伴う体調不良などを招いてしまうこともあります。

この他にも50~80%の方に高血圧が、肝臓にも腎臓同様に嚢胞ができる肝嚢胞が約80%の方に、脳の中の動脈にこぶのようなものができ、くも膜下出血のリスクを高める脳動脈瘤が6~16%の方にできると言われています。

腎不全

病状の経過としては元々遺伝性の疾患のため、一般的には30~40歳代頃に何らかの症状が現れ発病します。その後も嚢胞によるダメージが続き、60歳頃には約半数の方が腎不全と呼ばれる状態になってしまいます。

腎不全とは腎臓がダメージを受け続けた結果、その働きが失われてしまった状態です。腎臓は本来、血液の中の老廃物や不要物を濾過して尿として排泄する働きがあります。もし、腎不全になり腎臓が働かなくなると血液の中の老廃物は除去されず、身体の中には老廃物や毒性のある物質が蓄積していきます。

こうなると尿毒症という状態を招き、死亡してしまう恐ろしい状態になります。これを防ぐために、腎不全になってしまった場合には腹膜透析や血液透析などの透析を受ける必要があります。

透析を受けることにより血液の中の老廃物や毒物を除去することができ、尿毒症を招くリスクを避けることができます。

 

多発性嚢胞腎の原因

多発性嚢胞腎になる原因として、遺伝子異常が背景にあります。父親・母親のどちらか1人から遺伝子異常が伝わる常染色体優性多発性嚢胞腎をADPKD、父親・母親の両方から遺伝子異常が伝わる常染色体劣性多発性嚢胞腎をARPKDと呼びます。

名前が非常に似ていてややこしいですが、それぞれの略語は以下の頭文字を取っていて、2文字目だけが異なります。

  • ADPKD:Autosomal dominant polycystic kidney disease
  • ARPKD:Autosomal recessive polycystic kidney disease

(dominantは優勢、recessiveは劣勢の意味です。)

ADPKDの場合は生後すぐ発症するということは基本的にはありません。優性遺伝の場合、2本の遺伝子の内、1本が正常に働くため発症を防ぐことができます。しかし、年齢を重ねるにつれて正常な遺伝子が徐々に変異し、その働きが失われてしまいます。こうなることでADPKDが発症し、徐々にその症状が進行していくと考えられています。

ARPKDは特に重症になることが多く、出生前~新生児の段階でその症状がみられます。腎臓が働かず尿が上手く作られないため、羊水が少なくなり肺や脳が上手く作られず、人工呼吸器などの呼吸管理が必要となることもあります。

ただし、全ての多発性嚢胞腎の方がこのように遺伝するわけではなく、突然変異により急に病気が発覚することもあります。

多発性嚢胞腎はPKD1、もしくはPKD2と言われる遺伝子のどちらかに異常が起こることで発症する病気です。これらの遺伝子に異常があると腎臓でのカルシウムイオンの吸収が障害され、多発性嚢胞腎の症状が出現すると考えられています。

 

多発性嚢胞腎の治療法

多発性嚢胞腎の治療法は確立されておらず、基本的には対処療法にて対処します。対処療法とは病気の根本原因を治す治療ではなく、表面に出ている症状を抑えるための治療法です。

血圧コントロール

多発性嚢胞腎の治療の基本は薬と食事を意識した方法を行います。まず、合併症として起こりやすく、腎臓の働きを悪化させる高血圧の治療を行います。高血圧の治療は第一に生活習慣を整える事が重要です。

塩分のとり方の見直し、喫煙や運動不足など高血圧を招く生活習慣に陥っていないかを確認することが大切です。これらの生活習慣の改善を取り入れても血圧が下がらない場合は薬の使用を検討します。

血圧を下げる薬としてはレニン・アンジオテンシン系阻害薬が用いられることが多いですが、この薬はレニン・アンジオテンシン系と言われる腎臓に備わっている働きを抑えることで血圧を下げる効果を発揮してくれます。

生活習慣で意識するべき点として塩分以外にたんぱく質の摂取方法も見直すことが勧められています。大豆食品や肉・魚などの過度のたんぱく質摂取は腎臓にダメージを与える可能性があります。この為、食事内容を見直すことを指導されることがあります。

透析治療

多発性嚢胞腎が進行し、末期の腎不全になった場合は透析治療を行う必要があります。透析には血液透析と腹膜透析がありますが、日本では血液透析が主に行われています。

血液透析は透析クリニックなどに行き、機械を使って血液の中の老廃物などを除去する方法です。それに対して腹膜透析は手術を受けることで自分のお腹の中にある腹膜を介して自宅で自分自身にて透析を行う方法です。

腎移植

また、末期の腎不全になった場合、腎移植を行う方もいらっしゃいます。腎臓は身体の中に2つあり1つは移植しても問題ないと言われているため、家族間で移植が行われることもあります。ただし、多発性嚢胞腎は家族間で遺伝する病気です。このため、移植するはずのドナーが多発性嚢胞腎になっていないかを確認しておくことは大切です。

 

多発性嚢胞腎の最新治療

現在、多発性嚢胞腎の治療では進行を抑えるためにトルバプタンという薬が使用されています。この薬はバソプレシンV2受容体拮抗薬という分類の薬の1つです。バソプレシンV2受容体とは、バソプレシンと呼ばれるホルモンにより刺激され嚢胞を作ってしまうと言われていて、この働きを抑える薬、という意味です。バソプレシンV2受容体の働きを薬により抑えることで嚢胞の形成をゆっくりにすることができ、病気の進行速度を緩めることができます。

代表的な薬としては大塚製薬のサムスカがありますが、これは2014年に世界で初めて多発性嚢胞腎の治療薬として日本で承認されたお薬です。多発性嚢胞腎について研究されている杏林大学の東原英二教授も「QOLを大きく損なう腎臓の増大を緩和する治療薬が使用できることになった点は、たいへん重要であり、患者さんやそのご家族、そして我々医療従事者にとっても嬉しい限りです。」コメントされています。

しかし、それに加えて「『サムスカ』の使用上の留意事項も良く理解する必要があります。ADPKDに対する世界初の薬物治療が日本で始まることの意義と責任を自覚し、事故なく安全にこの薬剤の使用が定着することを期待します」という注意も同時に促しています。

あくまでまだ歴史の浅い治療方法ということを認識し、薬を使うかどうかは自身で選択していくという姿勢が重要になってくるでしょう。

 

 

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