今後求められる受診行動

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[投稿日] '15/11/28 [最終更新日] '18/03/18 277views
今後求められる受診行動

あなたが求める”理想の医療”

今回のコラム、まずタイトルを理解できない方も多いのではないでしょうか?医療を受けるのも、お金を支払うのも、健康な時でも保険料を払っているのも私たち患者です。正当な理由があり、対価も支払ってサービス(医療)を受けるのに、なぜその受診に関していろいろと制限されなければならないのでしょうか。これについては後でお話するとして、まずはあなたが求める”理想の医療”ってどのようなものか考えてみましょう。どんなわがままでも良いので、”理想の医療”の条件を挙げてみてください。

「待ち時間が短い」「費用が無料」「いつでも診てくれる」「家から近い」…

”早い!安い!旨い!24時間営業!”を彷彿とさせるコンビニやファストフードチェーンにも負けない便利さです。

「いい医者を選べる」「納得いくまで説明してほしい」「医療ミスがない」「病気が絶対に治る」…

これも魅力的です。どんな商品もあなたのためにお取り寄せ、ときにはオーダーメイドであなたにぴったりのサービスを提供してくれる。まるで老舗デパートの外商、高級料理店のような信頼感です。

「日常生活が送れるように回復するまで入院させてほしい」「仕事を続けながら治療してほしい」…

これは今まで入院や長期治療をしたことがない方は想像し難いかもしれませんが、大事ですね。骨折、がんなどの手術のために入院した場合、術後一定期間入院し、急性期をすぎれば退院となります。ただし、自分で身の回りのことを全てできる状態にまで回復しているとはかぎらず、退院して不自由することも往々にしてあります。また、ご高齢の身内の方が入院した経験があるかたは思い当たると思いますが、退院してからも手助け(介護)が必要で、家族の負担が増えるということもあります。逆に、手術やがんの薬物療法が必要であっても、仕事や家事が忙しく入院できる状況ではなく、短時間の外来通院での治療なら可能という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

もう一声どうでしょうか?

「そういえば近所の病院が閉鎖したって聞いたぞ。それは困る」

これは重要な条件ですね。医療の”持続性”です。せっかく信頼できるお店が近くにあったのに、閉店してしまったら残念ですよね。自分の老後も、子供もその子供もいい受診を続けられれば理想的です。

生命・健康という、多くの人にとって大切なものが関わるわけですから、医療に対する要望・期待値は高くて当然です。それらに応えるべく、医療機関、医療行政は実際に様々な取り組みを行っていますが、我々患者側としてもその努力を手伝えることがあります。

 

医療環境の変化

近年起こっている、そしてこれから起こる医療環境の変化に関しては、様々な視点・意見がありますが、ここでは主に”高齢社会の進行”にまつわる変化を取り上げます(この他、地域社会の多様化・格差、個人が医療に求める価値の多様化も、医療環境に影響をあたえる重要なテーマです)。

高齢化

進み続ける高齢化社会とずっと言われてますが、これは我々がいい医療を受けられるかに直結する重要な変化です。単純に考えると、高齢者が増えれば医療を必要とする人が増えます。すると、医療にかけなければならない国の予算(もとは我々の税金ですね)が増えてしまいます。予算オーバー分は、受診する度に必要な自己負担を増やすか、税収入を増やさなければなりませんね。我々がいい受診に求める「安い」という条件が成り立たなくなりそうな気配がします。また、医療を受ける人が増えると、病院が混み、待ち時間が長くなります。では病院を増やしましょうか。しかし、高齢者は増えても若い世代の人口は減少していくので、病院で働く人が足りません。入院中にナースコールをしても人手不足ですぐに対応してくれないかもしれません。医療の”便利さ”が低下してしまいそうです。医師は忙しく、希望の医師を選べなくなり、自分のために十分な時間をさいてくれないかもしれません。”信頼”も怪しくなってきました。少し暗い話になりましたが、何もしなければ、”いい医療”を持続できない状況であることは理解いただけると思います。

 

医療政策の近未来ビジョン

我々が求める医療を実現するため、あるいは持続させるため、医療行政は様々な取り組みをしています。前回のコラムでは病診連携に関するこれまでの政策を解説しました。ここでは、未来に向けた取り組みとして『保険医療2035』を紹介します。

保険医療2035

保険医療2035トップページ(スクリーンショット)

これは、20年後の2035年を見据えた医療政策を話し合う懇談会・ミーティングで、厚生労働省主催のもと、医療政策の専門家など民間の有識者も参加して行われました。最終的な提言書や各会議のレポートがこちらのリンクから閲覧できます。サイトのデザインもきれいで、現実を見据えながらも自由な発想・夢のある政策を掲げたスライドが用意されていますので、一度ご覧になることをおすすめします。

3つの柱となるビジョンとして、(1)「リーン・ヘルスケア 〜保健医療の価値を高める〜」(2)「ライフ・デザイン 〜主体的選択を社会で支える〜」(3)「グローバル・ヘルス・リーダー 〜日本が世界の保健医療を牽引する〜」が挙げられています。

(1)「リーン・ヘルスケア 〜保健医療の価値を高める〜」

より良い医療をより安く提供するというビジョンです。”より良い医療”の評価の主体が患者、つまり私たち医療を受ける側であると明確に打ち出しています。将来的には、患者に対する価値を考慮して医療技術や医薬品の効能を評価し、診療報酬点数(医療行為の値段)に反映していくことを目指しています。また、適切な医療を選択・提案する役割を担う”かかりつけ医”の育成も重要な課題としています。

(2)「ライフ・デザイン 〜主体的選択を社会で支える〜」

私たちが、自らの健康の維持・増進に主体的に参加できるようにしていこうというビジョンです。「健康は大事ですよ!禁煙しましょうね!」と宣伝するだけではなく、私たちが健康になりたいと思えるようにはどうすればいいかが議論されています。また、介護や健康相談などのサービスをもっと利用しやすくすることで、健康づくりに積極的に参加できるような政策を検討しています。

(3)「グローバル・ヘルス・リーダー 〜日本が世界の保健医療を牽引する〜」

最近ではエボラ出血熱などが国際的に問題になりましたが、このときは幸い日本への影響は最小限でした。20年後、グローバル化がさらに進んでいる状況で、同じ程度の影響で済むでしょうか?日本の医療だけを考えていたら、痛い目にあう可能性があるので世界規模で危機管理をしましょうというビジョンです。また、世界のヘルスケアに貢献することは、日本の医療産業・経済成長にも好影響があると見込んでいるようです。

将来のためのより良い受診行動

以上が行政の取り組みのご紹介ですが、私たちが求める”いい医療”を、将来・未来まで持続させるために、私たちができることは何でしょうか。まずは個人個人の要望を少し置いておいて、どんな人でも必要な時に良質な医療を受けられるシステムを維持するにはどうしたらよいでしょうか。

個人としてできることを、2つだけ挙げます。

予防の意識を高める

医療を必要とする人が増えれば、医療の質が低下する可能性があることを説明しました。逆に、病気にかかる人が減れば医療の質を維持しやすくなりますので、日ごろから予防に努めることは重要でしょう。そもそも医療システムの維持うんぬん以前に、病気にかからないことが個人にとって最善ですよね。でも予防って何をすればよいのでしょう。現時点で「こうすれば病気になりにくい」という確実な予防法は限られています。例えば、禁煙、定期的な運動、肥満防止、過度の飲酒を避ける、などです。これは健康診断の保健指導などでも耳が痛くなるほど聞かされていると思います。これらの予防法の効果を私たちが納得するかたちで示すのは医療政策側の仕事で、まだまだ不十分かもしれませんが、とりあえず信じて取り組みましょう(将来的には予防にしっかり取り組んでいる人にはインセンティブ・ご褒美という政策が実現するかも!?)。また、他にどのような予防法に効果があるのかの研究も盛んに行われていますので、成果が期待されます。

医療システムを理解する

前回のコラムでこれまでの医療政策の歴史を解説しました。様々な改革が行われていました。全ては私たちに質の高い医療を、平等に提供するという目的がありました。しかし、その医療システムも、使う側の私たちが理解していなければその効果は落ちてしまいます。例えば、高度医療機関を区別しても、軽症者が受診してはその機能は果たせません。クリンタルのコラムでも度々お伝えしていますが、迷ったときはまず「かかりつけ医」に重症度を判断してもらい、適した医療機関に紹介してもらうという方法が、現在の医療システムではいい受診行動といえます。医療政策上の動きとして、2017年度から「総合診療専門医」という制度が発足します。これは、“かかりつけ医”として適した能力を養うための道筋を学会が示し、その能力を学会が審査して専門医と認めるシステムです。この総合診療専門医を取得している医師は「かかりつけ医として十分な知識・経験、臨床能力をもっているので、みなさん受診してくださいよ」ってことです。たしかに、どんな能力をもっているかわからない医師ではなく、学会が認めた医師に相談するとなれば、自分で判断していきなり高度医療機関を受診するよりも安心ですね。医療政策上の議論として、他にも、救急車の有料化、紹介状のない場合の追加費用、などがありますが、これらは私たちが医療システムを“正しく”利用できていないために仕方なく行われている政策かもしれません。救急車は本当に必要な人だけが使用していれば、有料化なんて議論は起こらなかったかもしれません。

医療政策が良いものかどうかを厳しい目で判断していくことは重要ですが、私たち一人ひとりもただ要望や不満を伝えるだけでなく、現在の医療システムを理解し、本当に必要なときに必要な医療を受ける姿勢をもつことが、将来まで持続可能な医療につながるのではないでしょうか。

 

 

Photo credit: Lending Memo

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