自然気胸に対する胸腔鏡下肺部分切除術は何症例経験していると名医?

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[投稿日] '17/01/19 [最終更新日] '18/03/18 574views
自然気胸に対する胸腔鏡下肺部分切除術は何症例経験していると名医?

自然気胸とは

自然気胸は肺の一部に穴があき、胸腔に空気が漏れ出てしまう状態です。肺や心臓は、横隔膜や肋骨、背骨などで囲われた胸腔という空間にありあす。胸腔は通常、肺や心臓、大動脈、食道などが詰まっているおり、胸腔とそれらの臓器のすきまには空気は存在していません。

しかし、肺に穴があいてこの胸腔に空気が漏れてしまうと、その空気によって肺や心臓が圧迫されて、胸の痛みや息苦しさ、ショック(急激な血圧低下による意識障害)を引き起こすことがあります。やせ型の若い男性に生じやすいことが知られていますが、肺に突然穴があいてしまう原因は明らかになっていません。

軽度の気胸であれば、安静によって自然と穴がふさがることもありますが、中等度以上の場合、胸腔にドレーンと呼ばれる管を入れて、中に溜まった空気を引き出す胸腔ドレナージが行われます。そして、ドレナージをしても空気の漏れが続いたり、何度も再発するような場合には、手術による治療が必要になります。

 

自然気胸に対する胸腔鏡下肺部分切除術

自然気胸に対する手術は、一般的に胸腔鏡を用いて穴があいている部分の肺を切り取る「胸腔鏡下肺部分切除術」が行われます。一方、穴が多数あいている場合や、切除が必要な範囲が広い場合には、胸腔鏡ではなく、開胸して行う手術が必要になります。

胸腔鏡下肺部分切除術では、2cmほどの小さな穴からカメラや医療機器を入れて手術を行うため、傷が小さく済み、その分痛みも少なく、合併症のリスクも低く、退院までの期間も短縮することができます。しかし、直接見ながら行う開胸手術に比べると、胸腔鏡手術の場合には機器を扱いながら、モニターに映し出された2次元の映像から3次元の構造をイメージする、直接感触のない組織を切り開いていく、など高度な技術が求められます。

 

どれぐらい胸腔鏡手術を行えば名医と言えるのか?

今回ご紹介する論文は、自然気胸に対する胸腔鏡下肺部分切除術において、十分な技術を身につけるためにはどれくらいの経験が必要となるかを調査した研究です。

この研究は、2011年5月から2014年2月までの間に、ある1人の外科医が行った自然気胸に対する手術274件を対象としています。手術のデータと術後の経過をもとに、手術時間、術後合併症、胸腔鏡下肺部分切除術以外の手術を行った割合、同側の再発率の4つの項目に分けて評価を行いました。

274件の手術のうち、過去に行った手術の痕、あるいは手術前に留置したチューブの位置が不適切であったなどの理由で、あけるべき場所に内視鏡のポートが作れないことで、胸腔鏡下肺部分切除術が適応にならなかった症例が16件あり、評価の対象となったのは251件の手術です。患者さんの平均年齢は22.9±8.1歳、平均手術時間は65.6±22.2分、術後のドレーンの留置期間は1.5±1.1日、術後の平均入院期間は1.7±1.1日でした。

 

研究の結果

研究の結果、症例数を経験していくことで、様々な点で治療の質が高くなったということがわかりました。

まず手術時間に関しては、調査を行った3年10ヶ月のうち、最初の6ヶ月間と最後の6ヶ月間を比較したところ、平均手術時間は84.0分から47.6分に短縮しました。一つのマイルスートンとして、92症例を経験後、50%以上の割合で手術時間が70分を切るようになりました。

また、術後合併症の割合は、57症例目以降は5%未満に抑えられるようになりました。治療後に胸腔鏡下肺部分切除術以外の治療法が必要となった割合は、112症例を経験後、5%未満に抑えられるようになり、同側の自然気胸の再発率は102症例を経験後、8%以下になりました。

経験を重ねることで、名医と認められるだけの技術が確実に身についていっていることが分かります。

 

名医と呼ぶには少なくとも100症例の経験が必要

自然気胸に対して胸腔鏡下肺部分切除術を行う場合、想定外の出血に対する止血のためであったり、胸腔鏡下では安全に手術を行えない位置に気胸の原因となる穴があったなどの理由で、開胸手術が必要になることがあります。経験豊富な名医であれば、このような割合は低下すると思われます。

また胸腔鏡下肺部分切除術では、肺の一部を切り取る際に原因となる穴を見落としなく完全に除去する技術や、手術の際に他の部分に傷をつけてしまわないような繊細な操作が必要になります。このため、術後に同じ側の肺に再発が起こらないということも、名医としての指標になります。

胸腔鏡下肺部分切除術は自然気胸における一般的な治療ではありますが、今回の研究では、経験豊富な名医として合併症率や再発率を低い値で抑えられるようになるまでには、少なくとも100症例以上の経験が必要であると結論づけています。

 

【参考論文】Yang HC, Kim S, Yum S, et al : Learning curve of single-incision thoracoscopic surgery for primary spontaneous pneumothorax. 2016 Aug 11.

 

 

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