“巨人症”も”無月経”も下垂体腫瘍が原因の可能性があります!

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[投稿日] '16/09/20 [最終更新日] '18/03/18 535views
“巨人症”も”無月経”も下垂体腫瘍が原因の可能性があります!

下垂体腫瘍の概要

下垂体は脳の下に垂れ下がるように付いている7-8mmほどの小さな脳組織です。この下垂体が腫瘍化して大きくなったものが下垂体腫瘍(下垂体腺腫)と呼ばれます。

下垂体からは7種類のホルモンが分泌されています。

  • 成長ホルモン
  • プロラクチン
  • 甲状腺刺激ホルモン
  • 副腎皮質刺激ホルモン
  • 性腺刺激ホルモン
  • バソプレシン
  • オキシトシン

下垂体腫瘍は、ホルモンの分泌量が増える「機能性腺腫」とホルモンを分泌しない「非機能性腺腫」の2種類に分類されます。「機能性腺腫」として主に問題になるのは「成長ホルモン」「プロラクチン」「甲状腺刺激ホルモン」「副腎皮質刺激ホルモン」の4つです。

成長ホルモンが過剰に分泌される「成長ホルモン産生腺腫」は、40歳代の男性にやや多いといわれていますが、子供でもみられることがあります。成長ホルモンはその名の通り、成長を促すホルモンですので、体が巨大化します。子供の場合は「巨人症」、成人の場合「先端巨大症」になります。成長ホルモンは血糖値や血圧を高める働きもあるため、放置すると糖尿病や高血圧、心不全などに進行していくことが知られています。

「プロラクチン産生腺腫」は、20代~40代の女性に多い腺腫です。女性では無月経や乳汁の分泌、男性では症状は現れにくく、人によっては性欲低下などがみられます。放置すると、不妊の原因になります。

「甲状腺刺激ホルモン産生腺腫」はどの年齢にもみられ、性別による差はありません。甲状腺ホルモンは代謝に関係するホルモンであり、甲状腺刺激ホルモン産生腺腫では代謝が活発になります。放置すると心拍数が極端に高くなってしまい、不整脈やショック、意識の障害などが起こることがあります。

「副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫」は中年の女性に多い腺腫です。主な症状は無月経(月経がこない)で、精神的な症状としてうつ状態になることも知られています。この他、免疫力が低下するため、放置すると肺炎などの感染症にかかって死に至ることもあります。

下垂体腫瘍では、上記のような機能性腺腫が53%、非機能性腺腫が47%となっています。ほぼ半々ということですね。

今回は比較的問題になりやすい機能性腺腫について詳しく触れました。非機能性腺腫はホルモンを分泌しないから放置してもよいかというと、そういうわけではありません。非機能性腺腫ではホルモン特有の症状が出ないため、小さいうちから発見されやすい機能性腺腫と比べ、非機能性腺腫では発見される頃には大きくなってしまっています。

下垂体の横には目を動かす動眼神経が、上には視力を司る視神経が走っています。大きくなった腫瘍はこれらの神経や脳自体を圧迫し、視界が狭くなる、視力が悪くなる、目が正面で固まったまま動かなくなるなどの目の異常や頭痛などの症状が現れます。視界の異常としては、視界の左右の幅が狭くなる「両耳側半盲(りょうじそくはんもう)」となります。

 

下垂体腫瘍の原因

下垂体腫瘍では、産生されるホルモンによって様々な症状が起こりえますが、なぜ下垂体に腫瘍ができるのか、また何故そのホルモンだけが特別産生されるようになるのかということは明らかになっていません。
ここでは各種ホルモンがどのような働きをもっているかを解説することで、それぞれの症状が引き起こされる原因について掘り下げていきます。

成長ホルモンは骨や軟骨、身体の臓器などを発達させる働きがあります。骨には骨端線(こったんせん)と呼ばれる部分があります。背が高くなる際にはこの部分から骨が伸びていきますが、この骨端線があるのは子供のうちだけで、思春期を過ぎると閉鎖してしまいます。

このため、骨端線が残っている子供の場合は身長や手足が異常に伸びる「巨人症」となります。一方、成人の場合は骨の末端や軟骨、軟部組織が大きくなっていきます。このため、鼻や唇、舌、耳が大きくなったり、額や顎の骨が突出してきてゴツゴツした顔になったり、手足の容積が大きくなるような変化をします。

プロラクチンは通常、妊娠中に増加するホルモンです。このホルモンが過剰になってしまうことで、身体が妊娠していると勘違いしてしまい、排卵が起こりづらくなります。このため、月経不順や無月経になります。また、プロラクチンは乳汁の分泌を促すため、突然乳汁が漏れ出ることがあります。

甲状腺は代謝に関係している臓器であり、甲状腺ホルモンの分泌量が過剰になると、身体は常に運動を続けているような状態になります。この結果、普通に生活しているだけでも心拍数や血圧が高くなり、手が震えたり、汗をかきやすくなります。また、エネルギーが常に消費されている状態になるため体重は減ります。神経の活動が活発になると、神経質になったり、不安を感じやすくなります。

副腎皮質ホルモンが過剰になると、身体に様々な変化が現れます。代表的なものは中心性肥満です。これは通常の肥満とは異なり、手足は細いのに対し、お腹や胸などの身体の中心(体幹)が太るタイプの肥満です。この他、満月のように顔が丸くなる、体毛が濃くなる、にきびが増えるなどの変化が現れます。身体の内側の変化としては、高血糖や骨粗鬆症、免疫力の低下、無月経などがみられます。

また、大きくなった腫瘍は、下垂体のうち正常な部分を圧迫して破壊してしまうことがあります。そうなるとホルモンが産生されなくなり、下垂体機能低下症になることもあります。症状は、産生されなくなるホルモンの種類によって異なるため、非常に多彩です。たとえば成長ホルモンが産生されない場合、筋肉が減って脂肪が増え、骨は細くなり、活動性が低くなります。甲状腺刺激ホルモンの場合、代謝が悪くなって冷え性や体重増加、便秘、低血圧などが生じます。副腎皮質刺激ホルモンの場合、疲れやすくなったり、低血糖になって意識が障害されることがあります。バソプレシンは身体の中に水分を留めておくホルモンですが、これが産生されなくなると、尿量が異常に増える尿崩症になることがあります。

成長ホルモン 脳神経外科 下垂体腺腫

成長ホルモン 脳神経外科 下垂体腺腫

下垂体腫瘍の治療法

下垂体腫瘍の治療は、機能性腺腫の場合は手術による摘出が第一選択です。

手術の方法には、鼻から手術機器を挿入して、鼻の奥の突き当りにある蝶形骨と呼ばれる骨に穴を開けることで下垂体にアプローチする「経蝶形骨洞手術(けいちょうけいこつどうしゅじゅつ)」と、頭蓋骨を一部切り外し、脳の外側から下垂体に向かっていく「開頭術」があります。

腫瘍が小さい場合は経蝶形骨洞手術、大きい場合は開頭術が選択されます。下垂体腫瘍は良性腫瘍のため、取ってしまえば基本的にはそれで完治です。合併症としては、手術中に下垂体の正常な部分を傷めてしまうことがあり、下垂体機能低下症のような症状が生じることがあります。また、近くに視神経が通っているため、それを傷つけると視力が低下することがあります。

手術以外の治療法として、成長ホルモン産生腺腫やプロラクチン産生腺腫、甲状腺刺激ホルモン産生腺腫では、薬によって治療することもあります。ただし、これは薬の力でホルモンの働きを抑える治療法であり、下垂体腫瘍を根本的になくすものではありません。このため、長期的な投薬とそれに伴う医療費が必要になります。

非機能性腺腫では、大きくなってしまったものに対しては手術が推奨されていますが、小さい場合はその限りではありません。下垂体腫瘍は良性腫瘍なので、がんのように他の臓器に転移して悪さをすることはありません。あまりに大きくなってしまって視界・視力の障害、頭痛などの症状がある場合は手術を行いますが、これらのような症状が起きないような小さいものの場合は、すぐに手術はせずに経過観察とすることもあります。

 

下垂体腫瘍の最新治療

従来の経蝶形骨洞手術では手術用の顕微鏡を用いた手術が主流でしたが、現在では内視鏡を用いて手術を行う施設もあります。顕微鏡と比較すると、内視鏡の方が傷口が小さく済み、その分痛みも少なく、入院期間も短くなるというメリットがあります。ただし、高度な技術が必要となるため、専門的に行える医師が少ないことが現状となっています。

また、ガンマナイフによる放射線治療も盛んです。ガンマナイフとは、腫瘍の部分のみに集中して放射線を照射する方法です。従来の放射線治療では、腫瘍までの通り道にある正常の組織を傷つけてしまうデメリットがありましたが、ガンマナイフでは一点に集中して照射できるため、重要な組織の多い脳の周辺でも治療を行うことができます。合併症も少なく、患者さんにとっても非常に負担の少ない治療法です。手術では無理のない範囲で摘出し、後日ガンマナイフによって残りの腫瘍を治療するという併用を行うことで、より安全に、徹底的に治療を行うことができます。ガンマナイフを設置している病院はそれほど多くありませんが、治療法としてはどんどん広まっています。

 

 

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