学会の発表している診療ガイドラインの力

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[投稿日] '15/09/12 [最終更新日] '18/03/18 834views
学会の発表している診療ガイドラインの力

以前のコラム、「名医」が必要な時、必要じゃない時の中で、医療の質のばらつきを減らす取組みの一つとして、”診療ガイドラインの作成”があると書きました。今回はその診療ガイドラインとはどのようなものか、実際どう使われているのか、どう作られているのか、などをご紹介したいと思います。

 

診療ガイドラインは濃縮されたエビデンスの塊

診療ガイドラインとは、様々な学会が疾患ごとに出しているもので、各疾患の標準的な治療や検査を定義し、記載している数十ページから数百ページの冊子になります。

ガイドラインのある疾患、ない疾患がありますが、患者数が多く、ある程度複雑な疾患にはほとんどあります。日本医療機能評価機構のMindsガイドラインセンターホームページ(http://minds.jcqhc.or.jp/n/top.php) には、「外反母趾診療ガイドライン」から「頭頚部癌診療ガイドライン」まで、149のガイドラインが掲載されています。(下はMindsホームページイメージ)

 

Minds guideline view

 

ガイドラインでは、多くの研究論文に基づいて、それぞれの検査や治療などに対し、”グレードA:行うよう強く推奨する”、”グレードC:勧めるだけの根拠が明確でない”、のように、推奨の程度が記載されています。(下は糖尿病診療ガイドラインから一部抜粋)

DM guideline image

ちなみに「糖尿病診療ガイドライン2013」(http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4)を見ると、だいたい10ページに30本の論文が参照されていますので、全345ページでは、およそ1,000本もの論文(!)に基づいていることになります。

つまり日本語の300ページほどの冊子を読むだけで、1,000本もの論文のエッセンスを理解できることになります。これは時間のない医師にとって非常にありがたく、標準治療の普及にとっても非常に効率的です。しかも学会によっては、買うと5,000円ぐらいするガイドラインを無料でホームページ上で公開しているので、大変ありがたいと同時に普及への熱意を感じます。

 

診療ガイドラインから外れることは、グーグルマップのナビを無視することと同じ

実際に診療ガイドラインが臨床でどのように使われているかというと、若手の医師がその疾患の治療を学ぼうと思ったら、まず目を通すものです。例えば眼科の研修医であれば、まず「緑内障診療ガイドライン」のように日本眼科学会が出しているガイドラインに目を通します。場合によっては関連する他の診療科のガイドラインも目を通す場合があります。例えば眼科の場合、糖尿病網膜症の患者も診察することが多いので、糖尿病の診療ガイドラインに目を通す方も多いでしょう。

また、もちろん数百ページもある情報をすべて覚えておくことは困難なので、中堅の医師でも臨床をしている中でどうすべきか迷った場合など、確認のためにガイドラインを手に取ることもあるでしょう。そして、ガイドラインは最新の研究結果に基づき数年に1度内容がアップデートされていくものなので、1度理解したら終わりではありません。

そのようなガイドラインの遵守は病院内でかなり徹底されています。ガイドラインを知らずに、ガイドラインから外れた治療をすると、上の医師から勉強不足と厳しくご指導をうけることとなります。確かに1,000本もの論文からなるガイドラインから外れた治療を行うということは、その疾患を20年も30年も研究してきた巨匠1,000人を相手にすることに等しいので、それに対抗できるだけの理由・自信がないとできません。

もちろんベテランタクシードライバーがごとく、「ナビはこう言うけど、この曜日のこの時間帯はこっちの道の方が空いてるんだよ」みたいな、経験を積みに積んだ医師であれば、経験がガイドラインを上回ることがありえますが、それができるのは本当にごく一部のベテラン医師のみになると思います。

 

ガイドラインに関わる名医たち

こうした診療ガイドラインを1つ1つ作っていき普及させることが、医療の質のばらつきを減らすことにつながりますが、実際どのようにして作られているのでしょうか。

実は作り方にもガイドラインがあります。http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/guideline/handbook2014.html

Guideline of guideline

特に作り方ガイドラインの内容には触れませんが、ガイドラインを策定するためには、エビデンスの元になる論文と、編集をする委員の先生方が必要となります。先ほどの「糖尿病診療ガイドライン」の例ですと、論文1,000本に加え、いわゆる糖尿病業界の大御所からなる、策定委員が29名、評価委員が48名、執筆協力者が12名、関わっています。診療ガイドラインとは、これだけ大量の研究者・医師がかかわってようやくできあがるものなのです。逆に言うと、全国の糖尿病診療がこのガイドラインに基づくことになるので、策定に慎重を期して期すぎることはないのです。

こうやって数多くの基礎・臨床研究並びに編集委員の上に、標準的な治療の作成・普及というものは、一歩一歩進んでいきます。

 

 

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